九条の会事務局声明文


26回参院選の結果について

           2022..29  九条の会事務局

 

710日に行われた参議院選挙は、自民党、日本維新の会が議席を増やし、公明党、国民民主党を合わせた改憲4党の議席が3分の2以上を占めました。一方、市民連合の働きかけに応じた野党共闘は、過去二回の参議院選挙とは異なり限定的なものにとどまり、立憲民主党、共産党はともに議席を減らしました。改憲に向けた動きの加速が懸念されます。

自民党は、選挙公約で、改憲4項目を提示し、「憲法審査会で改正原案の国会提案、発議を行い、国民投票を実施する」としています。維新の会は、「9条に自衛隊を明記」、「緊急事態条項を創設」との公約を掲げ、自民党に「憲法改正のスケジュールを示せ」と迫りました。国民民主党は「緊急事態条項の創設」を主張し、9条については「議論を進める」と述べ、公明党は「憲法91項、2項は今後とも堅持する」としつつ、憲法72条など別の憲法条項に自衛隊の存在を明記する「検討を進める」と、明文改憲に向け踏み込みました。

岸田文雄首相は、選挙結果を受けて11日、選挙戦終盤の演説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の改憲への「思いを受け継ぐ」として、「具体的な内容について3分の2の賛成を結集し、できる限り早く発議に至るとりくみを進める」と述べました。さらに安倍元首相の国葬を強引に閣議決定し、これを最大限に利用しながら、この秋の臨時国会から来年の通常国会にかけて、改憲原案の作成、憲法審査会への提出、議論が進められようとしています。また、「敵基地攻撃」能力の保有と大軍拡、辺野古新基地建設をはじめとする南西諸島での軍備強化のごり押しなどを、強力におしすすめようとしています。

しかし、4党の間にはめざす改憲条項や改憲への姿勢に隔たりがあり、改憲が一直線に進む状況ではありません。選挙終盤745日の朝日新聞の世論調査では、改憲賛成36%、反対38%と大きく分かれていました。多くの有権者は改憲を望んでおらず、今回の選挙で改憲の動きが支持されたわけではありません。私たちの頑張り次第で国会内での改憲勢力の企てを止めることは可能であり、これまでもそうしてきました。

岸田政権は改憲の動きをロシアによるウクライナ侵略と中国の脅威などを口実に推し進めています。しかし、ロシアの蛮行を止めさせるために求められているのは、「戦争反対」「国連憲章守れ」との圧倒的な国際世論の結集であり、「核兵器使うな、なくせ」の世論の拡大であり、敵対的な軍事同盟の強化ではなく、対話と協力の包摂的な平和の枠組みの構築の努力です。東アジアの平和にとってもこの方向の探求が求められています。

 

 私たちは、憲法施行後75年にわたって憲法を守り抜き、これまでも改憲派が衆参両院で3分の2を占めるもとでも改憲発議を許してきませんでした。九条の会は、憲法9条とそれに基づく日本の社会が最大の危機を迎えている今、対話や署名・宣伝など創意工夫をこらして行動を起こし、草の根から市民の共同で憲法を守り、生かす取り組みをすすめることを呼びかけます。                           


ウクライナ侵略とそれを口実にした9条破壊、改憲は許さない

2022..25      九条の会事務局

 

 ロシアによるウクライナへの国際法、国連憲章を真っ向から蹂躙した侵略に対して、日本でも強い抗議の声と行動が起こっています。ところが、侵略開始直後から、このウクライナ侵略を口実に、「9条で国は守れるのか」、「力のみを信奉する相手には力でしか対抗できない」(国家基本問題研究所「意見広告」)と称して、9条の破壊と改憲を一層推し進めようとする言動が勢いを増しています。

 ロシアによる侵略開始直後の26日には、林芳正外相がブリンケン米国務長官と会談し、ウクライナ侵略を引き合いに出して、対中国を念頭に「日米同盟の抑止力・対処力の強化」を約束しました。翌27日には、安倍晋三元首相が、米国の核兵器を日本にも配備し共同で運用し「有事に」使用する「核共有」の議論を始めるべきだと主張し、自民党幹部や維新の会が呼応しました。「敵基地攻撃能力保有」の必要性も、一層声高に語られています。

明文改憲を煽る主張も活発化しています。313日に開かれた自民党大会で挨拶した岸田文雄首相は、ウクライナ侵略を「我が事として捉え」防衛力の強化と共に党是である改憲の実行に取り組むこと、「そのための力を得るたたかいが来たる参院選だ」と訴えました。衆参両院で開催された憲法審査会においても、自民党や維新の会の議員は口々に、「力による現状変更の脅威」を口実に、緊急事態条項の創設など改憲案の審議の必要性を主張しています。

しかし、今回のウクライナ侵略が明らかにしたのは、軍事力と軍事同盟の強化は軍事対決・挑発を激化させ国際社会を分断させるだけで、平和の実現に寄与するどころか戦争と武力行使に帰結する、という事実に他なりません。いま、自民党や改憲勢力が「台湾有事」を口実に強行しようとしている日米軍事同盟強化と改憲の道では、日本とアジアの平和を実現することはできません。9条を持つ日本政府の責務は、国際社会の分断を修復し、ロシアの侵略に反対し、アジアの紛争を武力によらないで解決する枠組みを作るために各国に働きかけることです。断じて、改憲、9条破壊を許してはなりません。

ロシアによる侵略以来1ヶ月、すでに地域・草の根で、「憲法改悪を許さない全国署名」などを手に、ウクライナ侵略に抗議し、便乗した改憲策動に反対する市民の行動が展開され、多くの共感が寄せられつつあります。

市民の行動、市民と野党の共闘は、安倍、菅政権が企てた改憲を阻んできました。この力に確信を持ち、市民の皆さんが、ロシアによる人道破壊攻撃と侵略の即時停止と共に、それに名を借りた、改憲と9条破壊の企てを阻むために、立ち上がられることを訴えます。

 

改憲、9条破壊NO!の声と行動を強め、来たるべき参院選では、市民の力で改憲勢力3分の2を阻みましょう。


改憲手続法改正案採決強行に抗議する

2021.06.12 九条の会事務局

 

 6月11日、参議院本会議で、日本国憲法の改正手続に関する法律(改憲手続法)改正案が市民や法律家団体の反対の声を押し切って可決、成立しました。改憲手続法は、公務員や教育者の運動規制、組織的多数人買収・利害誘導罪などにより市民の運動に厳しい規制を科す一方、投票日14日前まではラジオ・テレビC Mを解禁しインターネット広告も規制せず企業などの資金力に任せた宣伝を容認し、最低投票率も設けないなど、自由で公正な国民投票の保障とはかけ離れた欠陥法ですが、今度の改正は、こうした同法の欠陥を何一つ改善していません。テレビCMやインターネット有料広告の規制などについて「施行後三年を目途に」「検討を加え、必要な措置を講ずること」を附則に明記するという立憲民主党が提案し可決された修正もどこまで保証されるかは未定です。私たちは、こうした欠陥を放置したままの改憲手続法改正に強く抗議するものです。

 改憲手続法改正案は、安倍政権の下で停滞していた国会での改憲論議を進める糸口にしたいという狙いから、自民、公明、維新の会により、2018年6月に衆議院に提出されましたが、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」の結成、3000万署名を軸とした市民の強い反対の声、立憲野党の頑張りにより、実に8国会にわたって継続審議を余儀なくされてきたものです。菅自民党のなりふり構わぬ策動で改憲手続法改正は強行されましたが、私たちは、この数年間、改憲案審議を阻み続けてきた、九条の会をはじめとする市民の運動の力を確信にして、新たな局面に入った菅改憲に立ち向かいましょう。

 

 菅政権が改憲手続法改正を強行した狙いは、市民の反対で行き詰まっている改憲論議の再稼働、加速化にあります。中国との軍事対決を、日本をはじめとした諸国との軍事同盟網の強化によってすすめるバイデン米政権の登場を受けて、菅政権は、先の日米共同声明では台湾海峡有事に際しての米軍の軍事行動に対し武力行使を含めた加担を約束し、「敵基地攻撃力」保有、辺野古、馬毛島などの米軍基地建設、重要土地規制法の制定、さらには日米ガイドラインの再改訂など、憲法九条の実質的破壊を極限まで推し進めようとしていますが、その前に立ちはだかる九条の明文改憲に、改めて迫られているからです。

 菅首相が、5月3日、改憲派の集会へビデオメッセージを寄せ、そこで自らの失政を棚にあげコロナの蔓延防止を口実に緊急事態改憲やコロナで頑張る自衛隊の憲法への明記など自民党の取りまとめた「改憲4項目」の論議の必要を訴えた後、「憲法改正論議を進める最初の一歩として、成立を目指さなければならない」と改憲手続法改正の必要を強調したことは、菅自民党の狙いを露骨に示したものです。

 

しかし、市民の力で菅改憲をストップすることは可能です。コロナ禍のもとでも工夫をしながら、改めて改憲反対の行動を起こしましょう。改憲発議阻止の署名を手に、改憲手続法の欠陥とともに、「改憲4項目」の危険性を訴えましょう。

そして、来たる総選挙では、市民と野党の共闘の力で改憲反対勢力を大きくし、菅改憲の策動に終止符を打ちましょう。

 

                                     以上

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改憲手続法改正案採決強行に抗議する 2021.06.12 九条の会事務局
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